白内障手術を控え、高血圧や糖尿病などの慢性疾患で服用している薬が手術に影響しないか、 不安に感じる方は少なくありません。本記事では、全身疾患のコントロール状況に応じた薬剤調 整の基本原則と、内科との連携(協診)が必要となる判断基準を整理し、安全な治療判断に役立 てていただくことを目的とします。
「毎日血圧の薬を飲んでいるのに、手術中に血が止まらなかったらどうしよう?」

長い期間、慢性疾患の薬を飲み続けてこられた方にとって、「手術」という言葉だけで心理的な不安を感じるのは自然なことです。
医療技術の進歩により、白内障手術は創部が小さく回復が早い低侵襲手術として行われることが多くなっています。しかし臨床の現場では、眼科医は目の状態だけでなく、全身の基礎疾患がどの程度コントロールされているかを非常に丁寧に確認します。手術自体は微小切開であっても、体内の血流や代謝が安定してこそ、突発的な事態を防ぎ、良好な経過を期待できるためです。
💊記事を読む前の必須チェックポイント:降圧薬と抗血栓薬の違い
- 降圧薬:血圧を下げる薬です。出血を直接増やす薬ではないため、手術当日も医療者の指示に従って継続するほうが安全です。
- 抗血栓薬(アスピリン、抗凝固薬など):血液を固まりにくくして血栓を予防する薬です。手術中の微小出血に影響する可能性があるため、個別のリスク評価のうえで調整します。
1. 白内障手術前に「全身疾患の有無」より重要な3つの基準

白内障手術は多くの場合、点眼麻酔や局所麻酔で行われ、身体への負担は比較的少ないとされています。そのため、手術方法や眼内レンズの種類に意識が向きがちです。しかし本当に重要なのは、患者さんの全身状態です。疾患が「あるかどうか」そのものよりも、現在その疾患が「どれだけ安定してコントロールされているか」が安全性を左右します。
全身の基礎疾患管理は、建物を建てる前の地盤工事のようなものです。体の循環が不安定であれば、術後経過も良好とは言いにくくなります。安全に進めるために医療者は、次の3つの基準を総合的に確認します。
1. コントロール状態:手術前後の血圧・血糖が安定しているかを確認します。
2. 服用薬:服用中の薬の具体的な成分、特に抗血栓薬の有無を把握します。
3. 併存する眼疾患:糖尿病網膜症などの網膜疾患の状態を確認します。
これらの条件がバランスよく整っていると、術後の回復経過をより安定して見通すことができます。
慢性疾患があるからといって、必ずしも手術が受けられないわけではありません。血圧や血糖が予測可能な範囲で推移していれば、十分に安全に進められる可能性があります。眼科と内科が密に連携し、現在の体の状態を客観的に確認することが第一歩です。
2. アスピリン・抗凝固薬を「自己判断で中止」するほうが危険な理由

心血管疾患の予防のためにアスピリンや抗凝固薬(ワルファリン、DOAC/NOACなど)を服用している方は、出血への不安が大きいと思います。しかし白内障手術は、全身手術と比べると出血リスクが低い手術に分類されることが多いです。軽い出血を避けたい一心で自己判断で服薬を中止すると、かえって体内で血栓が形成され、脳卒中や心筋梗塞など重大な心血管・脳血管イベントにつながる可能性があります。
車の整備に例えるなら、抗血栓薬の管理は定期点検のようなものです。目に見える小さな傷(結膜下出血)が怖いからといって、車を動かす要であるエンジン(血栓予防)の管理を手放すことはできません。結膜下出血は見た目が一時的に赤く見えるだけで、自然に吸収されることが多い所見です。研究では、抗血栓薬を中止せずに手術を行っても、眼内の重大な深部出血の頻度が有意に増えなかったと報告されています。
したがって、投薬変更は必ず処方元の内科主治医および眼科手術チームと相談してください。患者さんごとの血栓リスク、腎機能、服用薬の特性を精密に評価し、スケジュール調整の要否を判断することが望ましいです。
📌手術前の服用薬(抗血栓薬)セルフチェックリスト
- 処方内容に「アスピリン」「クロピドグレル」「ワルファリン」「NOAC(リバーロキサバン等)」の成分が含まれているか確認しましたか?
- 服用目的はステント治療、心房細動、脳卒中予防ですか?
- その薬を処方した内科(医療機関)名と直近の受診日を控えていますか?
- 腎機能低下(慢性腎臓病)について指摘されたことがありますか?
3. 糖尿病の方の白内障手術で、血糖値より「網膜状態」を先に見る理由

糖尿病の方は、手術を前にすると当日に測定する血糖値ばかりを気にされる傾向があります。もちろん炎症反応を抑えるために血糖コントロールは重要です。しかし、術後の見え方の質を最終的に左右する鍵は、眼の奥にある網膜組織の健康状態です。
網膜は、カメラでいえば光を受けて像を結ぶ精密なフィルムのような役割を担います。目の前の曇ったレンズ(水晶体)をどれだけきれいに置き換えても、像を受け取るフィルム側がさまざまな原因で傷んでいれば、視力改善効果を十分に期待しにくくなります。特に黄斑浮腫や活動性の糖尿病網膜症を伴う場合、手術刺激により炎症が増し、浮腫が悪化するリスクがあります。
そのため糖尿病の方では、網膜の断面を精密に確認する光干渉断層計(OCT)や眼底検査を併用することが多いです。これは術後視力回復の予測や事前計画の立案に大きく役立ちます。網膜疾患の所見が確認された場合は、白内障の進行度に応じて網膜治療を先に行うこともあります。網膜状態が安定してから手術日程を進める流れになります。
4. 内科協診が必要なリスクサインと、安全な服薬調整の考え方

白内障手術前に内科協診が必要になるのは、「手術ができない」という意味ではなく、患者さんの体の状態に合わせて安全に手術を行うための確認ステップです。体の状態に応じて安全装置をもう一段重ねるプロセスであり、全身状態と服用薬を確認してリスクをコントロールするための保護手順です。
一般的に、次のような状況では両診療科の連携が行われます。
第一に、最近心臓ステント(血流確保)の治療を受けた、または人工弁の既往があり、抗血栓薬を服用している場合です。自己判断で中止すると血管が再び詰まるおそれがあるため、精密な日程調整が求められます。
第二に、慢性的な腎機能低下がある場合です。薬の排泄・代謝に時間がかかることがあり、腎機能の数値に合わせた調整が必要になります。
第三に、普段から血圧変動が非常に大きく、頻脈や不整脈の所見がみられる場合です。
このように、患者さんの状況に合わせて個別の治療安全網を設計する過程ですので、過度に心配する必要はありません。適切な協診制度を積極的に活用し、落ち着いて安全に手術を受けられる環境を整えることが重要です。
📌内科協診の際に患者さんが準備するもの
- 通院中の医療機関の処方箋、または服用中薬剤の英語リストを準備します。
- 直近3〜6か月以内の血液検査および腎機能検査の結果を持参します。
- 処方元の内科主治医から受け取った、白内障手術前後の服薬調整に関する意見書を眼科へ提出します。
5. 手術当日の血圧上昇を防ぐ安定化対策

慢性疾患のある方が手術当日に直面しやすい変数は、心理的緊張による急な血圧上昇です。自宅では正常範囲でも、病院の待合室で急に血圧が上がることは珍しくありません。急激な血圧変動は手術中の眼球血流に影響する可能性があるため、事前管理が重要です。
最も基本で重要な対策は、普段服用している降圧薬を抜かさず、当日の朝にいつも通りの時間で服用することです。多くの場合、当日朝の絶食が指示されていても、降圧薬は少量の水で服用するよう案内するのが標準的な臨床対応です。血圧を一定の水準へ誘導しておくことで、過度な血圧の揺れを未然に防ぎやすくなります。
手術前日は夕食を軽めにし、十分な睡眠で疲労を減らすことが望ましいです。手術当日は慌てて来院して息が上がった状態で血圧測定をしないよう、予約時間より少し早めに到着し、落ち着いた呼吸を保つことが大きな助けになります。
6. よくある質問 (FAQ)
Q. 抗血栓薬を服用中ですが、白内障手術の前に何日間中止すべきですか?
白内障手術は出血リスクが低い手術に分類されることが多く、アスピリンなどの抗血栓薬を自己判断で中止せず、最小限の調整または継続のまま進めるケースが少なくありません。ただし、心血管疾患の目的や腎機能の数値によって個別調整が必要な場合がありますので、自己判断で中止せず、必ず処方元の内科および眼科手術チームの指示に従ってください。
Q. 糖尿病がある場合、手術前にどのような検査が追加されますか?
HbA1cなどの血糖関連検査に加え、眼内の網膜・黄斑の状態を精密に確認する光干渉断層計(OCT)や眼底検査が含まれる場合があります。糖尿病網膜症や黄斑浮腫の活動性を先に把握することで、手術時期の判断や視力予後の予測精度を高められます。
Q. 手術当日の朝は絶食ですが、血圧の薬はどうすればよいですか?
一般的には、普段服用している降圧薬は手術当日の朝も、少量の水で抜かさず服用するのが基本です。服薬を自己判断で飛ばすと、緊張により血圧が大きく上がることがあります。服用中の薬の名称(成分名)をメモして持参すると、医療者がより正確に案内できます。
Q. 基礎疾患がある場合、内科協診や追加検査が必要になりやすいのはどんな人ですか?
抗血栓薬(アスピリン、抗凝固薬)を長期服用している方、最近ステント治療を受けた方、心房細動の既往がある方は協診が必要になることがあります。また慢性腎臓病で腎機能が低下している場合や、血圧コントロールが不安定で当日の血圧上昇が懸念される場合も、内科専門医の所見を得て安全性を高めるプロセスが行われます。

基礎疾患を長く抱えているからといって、白内障手術を必要以上に心配する必要はありません。手術の「可否」を左右するのは疾患の有無ではなく、コントロール状態、服薬計画、そして併存する眼疾患の確認です。全身の血管リスクを守るためにも薬を自己判断で中止せず、眼科・内科の医療者と一緒に日程を調整していけば、より落ち着いた気持ちで治療に臨めます。準備した処方内容や記録は、診察室で安全な判断を行うための心強い道しるべになります。
出典
- 大韓眼科学会、「白内障手術前の全身疾患管理指針および局所麻酔患者ガイドライン」、2023年。
- 大韓不整脈学会、「NOAC/抗凝固療法 診療指針(手術前後の薬剤調整推奨案)」、2024年。
- Seminars in Ophthalmology, "Do we need to hold aspirin before cataract surgery? Systematic review & meta-analysis", 2024.
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