成長期は、顎の骨を正しい方向へ導ける「最初のチャンス」です。
しかし、タイミングを逃してしまっても、近年の矯正技術の進歩により、手術に過度に頼らない「第二のチャンス」も広がってきました。
「子どもの顎がだんだん前に出てきた気がして心配です」
「成人になってから矯正すると手術が必要だと聞きました」

こうした悩みは珍しくありません。矯正治療において「成長期」は、骨がまだ成長しているため 治療上有利な時期です。
ただし、成人になったからといって「遅い」と断定する必要はありません。
以前よりも非外科的アプローチの選択肢が広がり、外科的治療の依存度を下げうる技術が多く臨床に取り入れられてきたためです。
本記事では、成長期矯正の理想的な価値と、成人矯正の現実的な可能性を整理し、2つのチャンスを賢く捉えるための視点をお伝えします。
1.「第一のチャンス」:ゴールデンタイムが有利な理由と目的は?

ゴールデンタイムは、子どもの 顎の成長ポテンシャルを利用できる「第一のチャンス」です。
この時期は、単に歯並びを整えるだけでなく、顎骨の不均衡そのものを改善する可能性があり、主な目標は「歯の排列」よりも 顎と顔全体の骨格バランスに置かれます。
- 何をするの?顎が正しく成長するように「成長方向」を整える力(顎整形力)を誘導します。これにより顎骨のリモデリングが促され、成人後に外科的治療が必要となる可能性を下げたり、二次治療の期間や難易度が軽くなる場合があります。
- どう進めるの?必要に応じて、**一次治療(骨格・スペースの整理)→ 観察(成長を見守る)→ 二次治療(歯列の仕上げ)**という二段階で進行します。一次治療で“土台”を整えておくことで、二次治療が簡略化されることも少なくありません。
2.第二のチャンス」:タイミングを逃したら、最新技術でどこまで可能?

「時期を逃したらもう遅い?」
結論は いいえ です。
成人は顎骨の成長が終了しているため骨格自体を変えることは難しい一方で、現在では 骨格性固定源(OMI)など、臨床的に確立された技術により、精密で予測性の高い歯の移動が可能になっています。
また MARPE(外科的切開を伴わない上顎拡大)は、成人でも 切開手術なしで上顎拡大を試みうる代表的な非外科的選択肢として広く知られるようになりました。
- ミニスクリュー(骨格性固定源:OMI)歯ではなく顎骨に小さなスクリューを一時的に固定し、強い支点を作る方法です。引っ張る・押す際に、不要な歯まで動いてしまう現象を抑え、必要な歯を狙った方向へ動かしやすくなります。症例によっては、突出感の軽減や咬合平面の調整など、以前なら外科的治療を検討していた領域で 非外科的代替となる可能性があります。
- MARPE(外科的切開を伴わない上顎拡大)成人では硬く癒合した口蓋正中縫合を、ミニスクリューの力で少しずつ拡げ、上顎を広げる方法です。以前は外科的拡大(SARPE)を検討していた狭い上顎に対しても、非外科的に改善できる可能性が広がっています。
ただし、重度の骨格性不正咬合(例:強いⅢ級の受け口)では、外科的治療のほうが有利な場合もあります。
非外科で可能な範囲や現実的な目標は、精密検査によって判断されます。
3.成長期矯正と成人矯正、治療の本質的な違いは?

最大の違いは 「治療できる範囲」と 「治療の推進力」です。
成長期は顎の成長方向をある程度コントロールできる一方、成人は完成した骨環境の中で 歯を精密に移動させることが中心になります。
| 区分 | 成長期矯正 | 成人矯正 |
|---|---|---|
| 治療対象 | 顎骨の成長方向の調整 + 歯の移動 | 歯の精密な移動 |
| 主な手段 | 成長誘導装置(顎整形装置) | ミニスクリュー等(骨格性固定源) |
| 目的 | 骨格バランス + スペース確保 | 機能回復 + 審美改善 |
| 抜歯傾向 | 非抜歯の可能性が比較的高い | 抜歯が検討される頻度が比較的高い |
| 治療環境 | 変化しやすい柔軟な骨 | 変化しにくい硬い骨 |
成人矯正では、社会生活上の理由から審美性と利便性が重視され、マウスピース矯正や 舌側矯正など、目立ちにくい装置が広く選ばれています。
成人矯正の目標は、精密な歯のコントロールによって 咀嚼機能の回復、顎関節(TMJ)の安定化など、機能と審美を複合的に改善することです。
4.装置・技術・最新トレンドは?

矯正装置や治療法は、年齢によって目標と環境が異なるため明確に分かれます。
成長期では「骨」を扱う装置が中心で、成人では「審美性」と「精密性」を高める技術が選ばれる傾向があります。
- 成長期で使われやすい装置
- 顎のリモデリングを促す 顎整形装置(フェイスマスク、ヘッドギア)
- 患者本人が装着する 可撤式の機能的装置
- これらは顎の成長が終わるまでに骨格を安定化させる一次治療を主目的とし、その後に永久歯列を仕上げる二次治療へ進むことが一般的です。
- 成人で使われやすい装置
- 固定式のメタル/セラミックブラケットに加え、マウスピース矯正や舌側矯正が高い人気を得ています。
- マウスピース矯正は衛生管理がしやすく成人に好まれますが、適応によっては成長期の後半でも使用されます。
骨格性固定源(OMI)やMARPEは、手術への依存度を下げうる標準的な技術として位置づけられてきました。
ミニスクリューは成人の骨格的制約を補う目的で用いられることが多い一方、思春期後半では補助固定源として限定的に使われることもあります。
| トレンド | 内容 |
|---|---|
| 成人矯正の増加 | 国内外で矯正患者の約3人に1人が成人になってきたという報告があります。大学病院で40代以上の比率が増加したとの報告もあります。 |
| 早期検診の重要性 | 韓国の矯正学会およびAAO(米国矯正学会)は、いずれも7歳前後での初回検診を推奨しています。 |
| 非外科的矯正の拡大 | MARPE・OMIが学術的に安全性と効果を検討され、外科的介入に頼りすぎない治療選択肢として広がっています。 |
5. 治療期間と総費用、負担はどれくらい違う?

治療の成功と同じくらい重要なのが、患者・保護者が実際に感じる負担、つまり 期間・費用・日常の不便さです。
成長期矯正と成人矯正は、この3点で構造的な違いがあります。
| 項目 | 成長期矯正(2段階) | 成人矯正(単段階) |
|---|---|---|
| 総期間 | 3〜5年(一次・観察・二次を含む) | 1.5〜3年(連続治療) |
| 費用確定のタイミング | 段階ごと(一次後に二次を別途算定) | 初期相談時に全体像が立てやすい |
| 支払い方式 | 段階別分割/一次を一括など | 総額一括/分割 |
| 予測可能性 | 低め(成長変化により方針が変わる) | 高め(計画・結果の予測が立てやすい) |
骨格性固定源(OMI)やMARPEは初期費用が高くなる場合がありますが、外科的アプローチ(入院・回復を伴う治療)を回避できる可能性があるなら、長期的には負担が軽くなるケースもあります。
※ただし費用対効果は症例により異なるため、精密検査での判断が重要です。
6. よくある質問(FAQ)
Q. 成長期矯正で一次治療を終えたら、二次矯正は必ず必要ですか?
一次治療の目的は骨格の安定化とスペース確保です。一次が十分に成功すれば、二次が不要または非常に簡単になる場合もあります。
ただ、多くのケースでは咬合の仕上げや微調整のために二次矯正が推奨されます。最終判断は観察期間の評価により決まります。
Q. 成人でも審美以外の機能改善は矯正で可能ですか?
はい。成人矯正は審美だけでなく、咀嚼機能の回復や顎関節の安定化など機能面も重視されます。整った歯列は、歯周病やむし歯リスクの低減にもつながります。
Q. 矯正後に歯が戻ることはありませんか?
後戻りを防ぐための保定装置の装着は、長期管理として重要です。特に成人は歯周組織の変化が起こりやすいため、定期的なフォローがより大切になります。
Q. いつ専門相談を受けるのがよいですか?
「今」が最も良いタイミングです。お子さまは7歳前後の初回検診が推奨されます。成人は時期よりも状態評価が重要で、顎関節痛や歯周トラブルがある場合は早めの相談が望ましいです。

矯正治療は **時期と方法の組み合わせ**が重要です。 成長期のゴールデンタイムは今もなお有利な機会ですが、標準化された非外科的技術の発展により、成人でも選択肢は広がっています。 今の状態に合う最善の方法を見つけることが、将来の笑顔を守る第一歩です。
出典
- Korean Association of Orthodontists (2024). Recommendations for First Check-up at Age 7 and Guidance on Early Orthodontics.
- American Association of Orthodontists. (2023). Age 7 Orthodontic Check-up & Adult Orthodontics Overview. AAO.
- Kang, S. H., Kim, J., & Lee, D. (2024). Miniscrew-assisted rapid palatal expansion in adolescents and adults: A scoping review. Journal of Clinical Orthodontics, 58(3), 123–134.
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