骨粗しょう症の方におけるインプラントの可能性、精密診断の流れ、最新の治療法と管理のポイントを整理します。ご高齢の方でも不安を減らし、必要な確認事項を把握できる内容を目指します。
「骨粗しょう症があるのですが、インプラントをしても大丈夫でしょうか?」
「年齢も高く、骨が弱いのに、手術でかえって悪化したらどうしよう…」
このような悩みで眠れない夜を過ごしたことはありませんか。

診療の現場でも、骨粗しょう症の患者さんから最も多くいただく質問の一つです。
特にご高齢の方は、歯を失う不便さ以上に「自分は手術を受けても大丈夫だろうか」という不安が大きいことがあります。
一方で、インターネット上には「骨が弱いと必ず無理」といった誇張された情報も見られ、心配が増してしまうこともあります。
ご安心ください。この記事は不安をあおるためのものではありません。診療室で日々向き合う相談内容を踏まえながら、骨粗しょう症の方でもインプラントが可能かどうかを、段階的に確認できるよう整理します。
この記事では「骨粗しょう症でもインプラントは可能か」という問いを軸に、なぜ以前は難しいと考えられていたのか、現在どのような診断や選択肢があるのか、治療過程で必ず確認したい点をまとめます。
不安ではなく、正確な情報を得て安心につなげることが目的です。
1. 骨粗しょう症の方は、なぜインプラントが難しいと言われてきたのでしょうか?

過去には、骨粗しょう症の方はインプラントの成績が良くないとされることがありました。骨密度が低いことで初期固定が弱くなりやすく、インプラントと骨が結合する**オッセオインテグレーション(骨結合)**が遅れたり、うまく進まない可能性があると考えられていたためです。
また、骨粗しょう症治療薬(ビスホスホネート等)を長期服用している場合、顎骨壊死のリスクが問題となり、治療を避ける判断がされることもありました。ただし、こうした見方は1990〜2000年代前半の限定的な臨床データに基づく側面もあります。
現在は、インプラント技術や診断手法が進歩し、課題への対応策も増えています。大切なのは「一律に無理」と結論づけるのではなく、「どの条件なら安全性を高められるか」を精密に検討することです。
| 健康な顎の骨 | 骨粗しょう症の顎の骨 | |
| 骨の状態 | 骨密度が高く、内部構造が緻密でしっかりしています。 | 骨密度が低く、内部がスポンジ状で粗く、弱くなりやすいです。 |
| インプラントの固定 | インプラントが骨にしっかり固定され、安定性が高いです。 | インプラントが安定しにくく、初期固定を得にくい場合があります。 |
| 骨結合(オッセオインテグレーション)の過程 | 骨細胞がインプラント表面に活発に付着し、比較的スムーズに結合しやすいです。 | 骨の再生能力が低下しているため、骨結合が遅れたり、うまく進まない可能性があります。 |
| 核心メッセージ | 見た目だけではなく、骨内部の強さと環境がインプラント成功の鍵になります。 | 骨密度だけで決めつけず、骨の状態を精密に評価し、適切な部位・方法を選ぶことが重要です。 |
2. 成功の鍵は「骨の量」だけではなく「骨の質」

「骨が足りないからインプラントはできない」と言われた経験がある方もいるかもしれません。もちろん骨の量(厚み・幅)は重要ですが、実際には**骨の“質”**が初期固定や回復過程に大きく関与します。
ここで言う骨の質とは、インプラントが骨の中で安定し、治癒が進みやすい**内部の環境(強さ・代謝・血流など)**を指します。
骨は大きく、外側の硬い皮質骨(緻密骨)と、内側のスポンジ状で血流の多い海綿骨から成り立ちます。インプラントはまず皮質骨で初期固定を得て、その後、海綿骨との骨結合を通じて長期的な安定を目指します。
- 皮質骨(緻密骨):外側の硬い層。初期固定に大きく関与します。
- 海綿骨:内側のスポンジ状構造。長期的な骨結合に関与します。
骨粗しょう症では海綿骨の密度が低く、安定性に影響する場合があります。ですが、CTで骨密度や構造を評価し、皮質骨が比較的しっかりした部位を選ぶことで、安定した結果につながるケースもあります。
さらに近年は、骨質評価を数値だけに依存せず、年齢、ホルモン状況、栄養状態なども含めて総合的に判断する考え方が強調されています。例えば70代の女性でも、皮質骨の状態が良好な部位では、十分な初期固定が得られる場合があります。
[骨の量と骨の質がインプラントに与える影響]
| 要素 | 骨の量 | 骨の質 |
|---|---|---|
| 評価基準 | 厚み・体積 | 密度・回復力・構造 |
| インプラントへの影響 | 補助的 | 決定的 |
| 主要な役割 | 長期的な安定性 | 初期固定・骨結合(オッセオインテグレーション) |
3. 骨粗しょう症の方に「精密診断」が必須な理由

安全性を高めるためには、精密診断が欠かせません。単なるレントゲン写真だけでなく、全身状態や薬剤歴まで含めて統合的に確認します。
- 3D CT撮影:骨の厚み・密度・神経位置を立体的に把握し、埋入角度や長さを精密に設計します。
- DXA(DEXA)検査:全身の骨密度を評価し、骨の健康状態を確認します。特に脊椎・大腿骨の値と顎骨の状態を比較することで、安全性の検討材料になります。
- 薬剤歴の確認:ビスホスホネート、デノスマブの服用有無・期間・用量は重要な確認事項です。薬剤歴により、手術計画の調整が必要になる場合があります。
- 血液検査:炎症指標、免疫状態、出血リスクなどを総合的に見て、術後合併症の予防に役立てます。
- 生活習慣の評価:喫煙、飲酒、口腔衛生習慣は回復速度と関連するため、事前に把握します。
4. 骨が弱くても可能性を広げる、現代のインプラント・ソリューション

現代の歯科医療では、複数の方法で骨粗しょう症の課題に対応しています。
- 特殊表面処理インプラント:骨細胞が付着しやすい設計により、骨結合の進行を補助します。
- デジタルガイド手術:CTベースのシミュレーションで、最適な位置・角度を設計し、合併症リスクの低減を目指します。
- ショートインプラント/傾斜埋入:骨が限られる部位でも、条件により固定を確保できる選択肢となります。
- 骨造成(骨移植材の活用):人工骨・自家骨・同種骨などで不足部位を補います。近年は成長因子(PRF、BMP等)を併用して骨再生を促す方法が検討されることもあります。
5. 成功を左右する最後の工程:骨結合(オッセオインテグレーション)

インプラントの成功は、最終的に骨結合が良好に進むかどうかに大きく左右されます。骨粗しょう症では骨の再生力が低下している場合があり、回復に時間がかかったり、条件によってはうまく進まないリスクも考えられます。
そのため、特殊表面処理インプラントの活用、適切な初期安定性の確保、生活習慣の管理、定期的なチェックが重要です。喫煙は骨結合に不利に働く可能性が報告されており、禁煙が推奨される場面もあります。
回復期には、カルシウム・ビタミンDの補給、バランスのよい栄養摂取が回復を支える要素になります。治療後少なくとも3〜6か月は過度な咀嚼負担を避け、必要に応じてCTや臨床評価で骨とインプラントの状態を確認していくことが大切です。
6. よくある質問(FAQ)
Q. 骨粗しょう症でもインプラントは可能ですか?
骨が弱いからといって一律に不可能というわけではありません。CTで骨密度や構造を精密に評価し、安定が見込める部位を選べる場合、良好な経過が期待できるケースもあります。ただし回復に時間がかかる可能性があるため、丁寧な管理が重要です。
Q. 服用中の骨粗しょう症薬は、手術前に中止すべきですか?
自己判断で中止すると骨の状態が悪化する可能性があります。特にビスホスホネートやデノスマブは顎骨壊死との関連が指摘されるため、主治医との協議が必要です。状態により服用時期や用量の調整を検討する場合があるため、必ず医療者の判断のもとで決めてください。
Q. 骨が足りないのですが、骨造成なしでもできますか?
近年はショートインプラント、傾斜埋入、デジタルガイド手術などで、骨造成なしの可能性が検討できる場合もあります。ただし全員に適用できるわけではなく、骨質や全身状態を含めて総合的に判断する必要があります。精密検査のうえで最も安全性の高い方法を選ぶことが重要です。
Q. 手術後に最も大切な生活管理は何ですか?
術後の3〜6か月は骨結合が進む重要な期間です。硬い食べ物を避け、口腔衛生を徹底し、定期受診を継続してください。カルシウム・ビタミンDの補給、禁煙・節酒なども、長期的な維持に関与します。

インプラント治療を控え、骨粗しょう症のために不安を感じている方は少なくありません。ですが、精密な診断と一人ひとりに合わせた治療計画によって、十分に安定した結果が期待できる場合があります。 重要なのは、骨の状態だけでなく、服薬歴や生活習慣まで含めて総合的に評価し、**個別に最適化したアプローチ**を行うことです。不安を抱え込まず、正確な情報と専門家のサポートをもとに、納得のいく選択につなげていきましょう。
出典
- Pjetursson, B. E., et al. (2014). Implant survival in patients with osteoporosis. Clinical Oral Implants Research, 25(7), 819–826.
- Roca-Millan, E., et al. (2021). Osteoporosis and dental implants: A systematic review. Journal of Clinical Medicine, 10(5), 1032.
- Korean Academy of Oral & Maxillofacial Implantology. (2022). Clinical guidelines for implant treatment in elderly patients.
※ 本ブログのすべてのコンテンツの著作権はメディハイに帰属します。
無断での複製・配布・二次加工を厳禁し、違反が確認された場合は事前の警告なく法的手続きを行います。
あわせて読みたい

